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2024年9月 8日 (日)

大阪松竹座「カルメン故郷に帰る」をみて

高峰秀子主演の松竹映画は10回以上観た。東京池袋で何度も観た大好きな映画だ。近鉄特急で難波へ、井高野君と現地集合。座席は2階上手側。

おきん/リリーカルメン 藤原紀香

朱美/マヤ 横山由依

青山正一(おとっつぁん) 石倉三郎

ゆき(姉ちゃん) 月丘七央

田口春雄(オルガンの先生・カルメン初恋相手) 徳重聡

田口光子(春雄の献身的な妻) 惣田紗莉渚

 

牛に頭を蹴られておかしくなったおきんが、芸術の勉強をしに東京へ。おとっつぁんは心配で仕方なかったところへ、不意に娘が紀の川に帰るという知らせがある。おとっつぁんの予感的中で、まともな芸術なんかではなく浅草ストリップ劇場で働いているとのこと、派手な格好で朱美を連れて凱旋する。

イケメンで戦前はぶいぶい言わせていた春雄が、戦地で視力を失い復員。耳が聞こえなくなったり死んでしまった戦友より自分はずっと恵まれているとは言ってはみるものの、目が見えないことで差別を受けた、心の傷は癒されない。見える目はもう帰ってこない。自分は生きる価値はないんじゃないかと悩む日々を送る。光子も献身的に夫に尽くすも、まだ若いのだから綺麗な服を着たり化粧をしたりしたいお年頃だろう。そういった憧れも、愛する夫の介護のためにあきらめざるを得ない。失明して小学校教員を解雇され、光子は内職で家計を支えていかなければならない。いのち同然のオルガンをついに質入れしてしまう。

おきんが紀の川でストリップを披露して喜ぶのは、無責任な若人男性たち。彼らも日々生計を立てるために汗水流して働いている。怒り狂う女性陣。そんななか、おきんがパンパンと言われ差別を受ける。落ちぶれてしまったおきんが情けなくて、おとっつぁんは遂におきんを勘当する。姉ちゃんが必死になって、おきんとおとっつぁんのあいだを取り持つも、おとっつぁんの心の傷、おきんの心の傷は癒されることはない。とはいえおとっつぁんを愛するおきん。稼いだ金は老いて病むおとっつぁんに全部預ける。その金で、いのち同然のオルガンが春雄の手にもどる。小学校からオルガンの音が響く中、おきんと朱美を乗せた汽車が東京へ去っていく。結局、おきんが、ひとりの人間の生きがいを与えるという善業をひとつおこなった。みんなが心の傷をかかえながら、たくましく生きていくのであった。

ただ紀の川の自然だけが、なにも変わることがない。ふるさとは傷ついた人間をいつも暖かく迎えてくれる。

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