幸福実験国家の太平天国

杜甫

昔聞く洞庭の水　今上る岳陽楼

呉楚東南に坼け　乾坤日夜浮かぶ

親朋一字無く　老病孤舟有り

戎馬關山の北　軒に憑りて涕泗流る

漢民族が気軽に行ける最南の地が洞庭湖あたりまで。それより南方の山深き地には山越と呼ばれる非漢民族が住み、野象が棲んでいた秘境の地であった。山越の特徴は低身長と畜蠱（巫女が用いる毒虫の飼育）。漢民族は南北朝時代から元時代にかけて少しずつ海港を征服していき、客家と呼ばれ山越から嫌われた。その南にはベトナム人のチワン族が住んでいる。

建康（南京）　→　杭州　→　泉州　→　広州

太平天国（1851～1864）　

天王　洪秀全　シャーマン預言者　88人の妻

東王　楊秀清　シャーマン預言者　36人の妻

西王　簫朝貴　シャーマン預言者

南王　馮雲山

北王　韋昌輝　14人の妻

翼王　石達開　7人の妻

燕王　秦日綱

豫王　胡以晄

科挙を独自に施行して官僚を登用した。農民をやめてご飯が食べられる官僚になれるのが最大の魅力だった。これはただの乱ではなく、いいところまで行っていた。もし中華思想を克服して、英仏と共同戦線を張って、北京の清王朝を滅ぼしていれば、明治日本を含めた東アジアの歴史は大いに変わっていた。

「滅満興漢」

辮髪禁止・裙子（スカート）禁止・纏足禁止のキリスト教信者団体

「偶像破壊」「男女隔離」「昇官発財」「農村免税」

「聖庫制度」都市の収奪品・私有財産をすべて収納

興ってから滅ぶまでに総勢2000万人が虐殺された大乱。

お金持ちの客家が科挙に落第して、チワン族と協同して起こした反乱。建康に理想国家「中国」を建国し、都を「天京」と称して、北京の大清帝国政府と対峙した。のちの人民公社の先駆けとなった万民平等の天朝田圃制度を布いた。「大脚婆（纏足をしていない足の大きな女性）」と呼ばれた農村女性も食事の準備や城づくりなど労働を行ったが、南京などの都市女性は纏足のため労働できなかったので天京の掃除を担当した。纏足をしていなかった客家やチワン族の女性に頼るところ大であった。チャイナ服は満洲人にしか着ることが許されておらず、漢民族の憧れの的であった。後宮に、大晦日に集めた1000人の美貌女官が住み、南京に百工衙をつくった。

この宗教団体に入りたくなかった漢民族は、アヘン中毒で弱体化して賄賂に弱かった大清帝国の八旗が当てにならず、団練、郷勇と呼ばれる自警組織を形成した。

1840～1842年、アヘン戦争で侵略を開始した大英帝国。1853年、香港総督ボナムが太平天国を偵察。「洋兄弟」と呼ばれ歓迎されるが、受付窓口になった韋昌輝だったが、華夷思想の上から目線が強く条約締結までは至らず。アヘン交易も不許可。半年後、フランス公使ブルブロンが太平天国来訪。秦日綱と会見するも同盟の意思なく決裂。1854年、アメリカ全権委員マクレーンが太平天国に来訪すると、呉如孝による砲撃を受けて決裂。太平天国と交渉が頓挫した列強は、清の上海道台だった呉健彰と交渉をつづけた。上海を護衛していた清軍の将軍は向栄。1856年、天京事件で楊秀清が殺害され、怒った石達開が犯人の韋昌輝と秦日綱を殺害した。四川に国家建国することを夢見た石達開が湘軍に敗死。

あらたに五王が制定され、のちに干王の洪仁玕が加えられた。

英王　陳玉成

忠王　李秀成

侍王　李世賢

（清に寝返る）　韋志俊

輔王　楊輔清

章王　林紹璋

簪王　蒙得恩

干王　洪仁玕

1856年、アロー号事件に勝った英仏連合軍は太平天国と中立を保ち北京陥落し1860年北京条約締結。1859年に香港から洪仁玕が太平天国に入信し、のちの洋務運動に先駆けた西洋化を進めていった。洪仁玕が実務を司った太平天国は英仏との同盟条約を改めて模索したが、英仏は清と同盟したほうが有益と判断し、太平天国鎮圧に協力を開始した。イギリス・パークスが太平軍への補給を中止すると形勢逆転した。

北伐軍　林鳳祥・李開芳

北伐援軍　曽立昌

⚔　ネルギンゲ・センゲリンチン・勝保

西征軍　韋志俊・石達開・林紹璋・曽天養・羅大綱・陳玉成・韋昌輝・李秀成

⚔　楚勇（江忠源）・湘勇（羅沢南→曽国藩）・呉文鎔・胡林翼・曽国華

アメリカ　ウォード　洋槍隊

イギリス　ゴードン　常勝軍

曽国荃　湘軍

李鴻章　淮軍

1861年、西太后がクーデタ。英仏と協同して太平天国を鎮圧するという態度を明らかに示した。

個人の自由を認めず、異論の者を敵視して中央組織が内部結束を固めようとする中国人の姿勢は今もなんら変わらない。社会科学の最先端知識を駆使して超然社会主義国を作り出した中華人民共和国は、AIが国家主席に就任するころには崩壊を迎えるだろうが、その日までに日本が存在しているかどうかは疑わしい。中国に忠告を与えられる真のパートナーは日本だけなのであるが。日出る処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙なきやと。