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2016年5月28日 (土)

第32回大阪食物アレルギー懇話会に出席して

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午前診を終え、大阪食物アレルギー懇話会に開場まもなく一番乗りで行ってきました。

神奈川県立こども医療センター 栗原和幸先生

「食物アレルギーのパラダイムシフト」

副題が「スキンケアによる乾燥の改善が食物アレルギーを予防する」

卵やミルクを食べていないのに、ベビーがなぜアレルギーに感作するのか謎でした。経口・経腸感作でないとすると経胎盤感作、経母乳感作が疑われたことがありますが、これらは否定され、いまは経皮感作と考えられています。

10年以上前に、無名の日本人女性3人がハウスダスト中に卵やミルク抗原量を測定して日本語雑誌に報告しており、ハウスダストの食物抗原が、ベビーの皮膚に付着して食物アレルギーに感作するようです。

ベビーはセラミド生成が未熟で、乾燥肌になり、皮膚表面から抗原の攻撃を受けやすくなっています。

この考え方で進めると、ベビーは生まれてすぐから積極的に保湿剤を使い、ハウスダスト中の食物抗原からの攻撃を防御しておくのが得策でしょう。

もうひとつ。

食物抗原を早く食べているほうが、食物アレルギーになりにくいということ。1911年のマウス実験ですでに報告されていました。

食物抗原を食べて1~2時間後に小腸から未消化たんぱくが吸収されて、食物アレルギーを起こす現象から、食物抗原を厳格に除去すれば食物アレルギーが治ると単純に推測されてきましたが、いまは否定されています。むしろ弱抗原化(つまり加熱処理)された食物抗原を少量摂取しておくほうが食物アレルギーにならないとされています。

ここで注意しなければならないのは、ベビーの小腸の環境です。下痢しているときに食物抗原を与えると普段より大量の未消化のたんぱく抗原が血液中に進入します。食物アレルギーを抑制するどころか、かえって促進してしまいます。善玉菌が死滅して、悪玉菌がはびこっているときも同様です。しっかりといいウンチが作れるようになってから、食物抗原摂取を開始すべきです。

0歳児は歯も生え、もぐもぐから、かみかみに食物を咀嚼し、唾液でまず消化できるようになります。さらに胃酸や小腸分泌液で食物は分解され、悪いゴミを腸内細菌がさらに分解処理してくれます。こうなるとだんだんと食物アレルギーを起こさなくなってきます。

まとめ、食物アレルギー予防のためにすべきこと。 

1.生まれたらすぐ保湿して、ハウスダスト中の食物抗原感作を防ぐ。風呂に入ってハウスダストを皮膚から洗い落とす。アトピー性皮膚炎を早期に積極的に治す。

2.少量ずつ食物抗原を積極的に摂取し始める。離乳食開始を遅らせるな。好き嫌いが出てきたらもう遅い。

3.しっかりと食物を咀嚼する。早食い大食いは禁物。未消化な食物は大敵。手づかみで食べるとき、べたべた皮膚につけるのはほどほどに。エプロンをかけなさい。

4.いろんな食物を回転摂取し、ひとつの食物を食べすぎない。

5.下痢の時は、油ものを避け、加熱処理した柔らかい食物を食べる。早く消化不良を治す。ミルラクト(乳糖分解酵素)使用も一策。

6.悪玉菌が繁殖する有毒な便秘は大敵。毎日一回排便を促すこと。ヨーグルトや乳製品で善玉菌を補う。

さて一般的なアレルギーのお話。

ヘルパーTリンパ球にはTh1とTh2の二つのタイプがあり、Th1/Th2バランスがくずれるとアレルギーを生じます。

胎児期はTh2優位ですが、生まれてすぐ食べ物から腸内細菌を摂取したり、BCGワクチンを接種したり、昔は寄生虫や食中毒菌に感染したりして、Th1の勢いが増し、アレルギーを防いできました。東京医科歯科大の藤田先生がおっしゃるように、寄生虫がいなくなり、抗生剤入りグッズ開発の氾濫で細菌暴露が減ったために、アレルギーのこどもが激増しています。

ゲームがこどもの精神発達をズタズタにしているように、環境の清潔化も大きな社会問題だと思います。

パッチテスト > RAST血液検査 > チャレンジ(食物負荷)

この順で感受性が高くなります。RAST陰性でも皮膚につけば赤くなることがありますし、RAST陽性でもチャレンジしてみないと食べられるかどうかわからないのです。要は、安全に食べることが目的です

パッチテストよりRAST血液検査のほうがより食物アレルギーの状態把握をしやすいのです。

講演後、尼崎医療生協病院の冨永弘之先生にお会いして、いろいろ教えていただきました。いつもありがとうございます。

抗原感作しにくく免疫寛容を起こしやすい卵や乳製品や小麦製品の商品開発をなぜしないのかとお聞きしたところ、そんな高価な特許商品は誰も使わないだろうし、保険適応になったら保険制度を金銭的に圧迫してしまうのお答えでした。

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